メキシコ人と仕事をして、次のようなことを感じる日本人は少なくないのではないでしょうか。
· 本題に入る前の前置きが長い。
· 白黒はっきりせず、灰色の部分が残る。
· メキシコ人は会合、パーティーなどへの参加、退出の際にわざわざ1人づつに挨拶して回るが、それは面倒。
メキシコ生活が長い私でも、文化の初期設定が日本でされた身にとっては、結論が先に出てこないことや、やたらと長引く時間にじれったくなることがあります。
しかし、上記については、冷静に考えるとそれなりに理由があります。
メキシコでは(そしておそらく他のラテン諸国でも)、ビジネスの場において個人の絆、感情的なつながりが大きくものを言います。法の支配が十分でない環境では、最終的に人間同士の信頼が重要になるということが大きな理由のひとつとして考えられます。
そして、その信頼はタスクベースの信頼でなく、感情ベースでの信頼というところがポイントです。法的に権利がしっかり保証されていて、実務と感情を切り離して進めることに問題のないタスクベースのアメリカとは異なります。
メキシコにおける人間関係は、スタイルこそ違いますが、関係性が重要であるという点においては日本にある意味近いと言えます。
私はこれまでいろいろな交渉の場に立ち会いましたが、核心的な決定や重要な合意は、思いの外インフォーマルなシーン(食事中や酒の席など)で行われることが多いことをみてきました。
その昔、私が勤めていた日系企業のある案件で、メキシコ側の請負業者と大きな利害対立があったときのことです。請負事業の補償で、双方の主張する金額に大きな開きがありあました。
それまで何度も事務的な交渉を重ねてきたにもかかわらず埒が明かなかったので、気分を変えてレストランで食事でもとりながら話し合おうということになりました。
こちら側は日本人2人、メキシコ人1人、相手側はメキシコ人3人。交渉は夕方に始まり、酒も入り、マリアッチなどの余興も加わり、笑いもありましたが、核心部分での論議は平行線のまま。こちらからプランA、プランB、プランCを掲げても合意に至らず、交渉は非常にシビアなものになりました。相手の担当者が泣き出してしまう場面もありました。
結局その場では結論が出ず、持ち帰って検討ののち回答を出すとメキシコ側が申し出てきたので、その場は一時解散。夜中の12時を回っていました。
今回の合意には時間がかかりそうだ…。そんな思いで帰宅の途に就いたのですが、翌朝一番で事務所に届いていたFAXを見てビックリ。
「昨夜は皆様と素晴らしい時間を共有でき光栄でした…私たちはあなた方の提示された条件に同意します…」
あの対立は何だったのだろう? どういう心境の変化か? 何か心に触れるものがあったのか。あるいはこちらの本気度が伝わったからか…?
本当のところは今でもわからないのですが、交渉がお互いをさらけ出さずに、会議室などフォーマルな場所でのみ行われていたら、あのようなプラスの結果にはなっていなかっただろうと思います。
メキシコでは契約書にはやたらと厳しいことが書かれていますが、細かいことはあまり重要でなかったりします。最終的に重要なのは、人と人の感情的信頼です。ひとたびその信頼が結ばれれば、それまで立ちはだかっていた壁が次々に崩れ、全てが驚くほどスムーズに進みます。
感情的信頼、メキシコビジネスにおけるキーワードです。
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